カテゴリ:帰依―Kie( 4 )

蜩之章 ~参~
「……ちゃん。」

「……………。」

「…しわすちゃん?」

「…え、あ、はぁ~い。」

「何だか、心ここに在らずみたいねぇ…踊りと続いたし、休憩にする?」

「ううん、あのね……ごめんなさい。」

「そんなに謝らなくたっていいから、ね、ちょっと御茶にしましょう♪」


コトリと棹立てに胡弓を立て掛け、間も無く御茶一式と和菓子を皿に載せて戻って来る。

日頃通う生徒達にも、接する態度は変わらなかった。

それでも矢張りこの娘には、より一層優しさを帯びた笑顔を向けている。

自分にこの伝統芸を伝えた御師匠様は、とても厳しい人だった。

奏でる弦の乱れは心の乱れとばかりに、来る日も来る日も辛辣な言葉を浴びせられた。

そう、、、息子に対する、夫の様に。

伝統を受け継ぐという事は、我が命そのものの継承でもあるが故。

妥協という甘えは微塵も無く廃さねば、歪み伝わり、やがて滅ぶ。


一日怠れば師匠に判る。二日怠れば自分で判る。三日も怠れば他人にも判る。


それが、御師匠様の教えであり。

指先から血が滲んでも、爪がひび割れても。

泣き言は、一切許されず。


『でも…無理強いしない。この子には愉しく、心の音色を奏でて貰いたいから。』


「……ちゃん。」

「……………。」

「…おばちゃん?」

「…え、あ、なぁに?」

「おばちゃんも、心ここ…ナントカだね!」

「…あら、本当。いやぁねぇ~。」

母娘のように、仲良き姉妹のように。

二人は、屈託の無い笑顔を鏡のように映し合っていた。

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(長囃し)
三千世界の松の木ァ~ 枯れても
あんたと添わなきゃ 娑婆に出た甲斐がない

(囃し)
唄われよう~ わしゃ囃す

(唄)
竹になりたや
茶の湯座敷のひしゃくの柄の竹に
いとし殿御に持たれて 汲まれて
一口 オワラ 呑まれたや

(合の手・長囃し)
春風吹こうが 秋風吹こうが
おわらの恋風 身についてならない



初秋。

立春から数えて二百十日目を迎える、その日。

小さな山間の町に、一節の唄が風に乗って流れる。


哀愁に満ちたその旋律は、恋しい者を待つ身の儚さを表している。

艶やかな女踊りと勇壮な男踊りは、笠に隠れながらやがて重なり合う 。

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併せる三味と胡弓が儚い逢瀬を物悲しく彩っていく。

大風の厄災を除け、五穀豊穣を願う事。

それは、人と人との温かさを求める想いにも似て。

「風の盆」は、祭りと呼ぶには余りにも侘しい行事。

それは、その土地に住む者だけが大事に育くんできたもの。

幻想的で優美な、悠久の時を刻む物語。
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*************************************************

「どう?美味しかったでしょ。」

「うん!しわす、甘いもの大好き~♪」

「そう、良かった。今度また作ってあげるね。」

「本当?」

「えぇ、勿論。だからもう一節だけ、頑張ってみようか。」

「うん!」


ちらりと棟伝いの建物を見やった後、幼き娘は胡弓を膝に落ち着かせた。

小さな指が掴む弓と棹を揺らしながら、未だ拙く響く音色を必死に奏で始める。

何時かその指から、誰にも真似のできない色の糸を紡いで欲しい。

それは、傍で見守る者の願いでもあり、遠き昔に抱いた自分の夢でもあり。


緩やかなその調べは、別棟で待つ少年の耳元にも届き。

秋空の筋雲のように、風と共に何処かへと漂って行った―。


                                           (了)


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※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

さて、胡弓の話は此れで良かったのでしょうかねぇ…?
(妹分の設定を必死に手伝う兄貴分であった(笑))

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

【追記】
何やら、日記も書き始めたようだ。
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by yugenniou | 2007-04-24 22:47 | 帰依―Kie

帰去来兮
トンネルを抜けると、其処は……


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麓に雪の残らぬ、雪国だった。



更に抜けると、其処は……



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一面、海。

山深い土地を一気に潜り抜け、見渡す限りの紺碧の風景に胸打たれるのは…

はてさて、何年振りの事であろうか。


此の海の沖で、巨大なが暴れているとも噂さされてはいるが、

別に運命予報士の通達で来た訳でもなく。

その目的は、一族内で『骨送りの儀』と呼ばれる、先祖の墓への納骨に立ち会う為。


幼き日、夏休みを利用して両親に連れられて来た記憶が微かに残っている。

長い長い列車の旅の末、ようやく辿り着いたというのも今は昔の話なのだろうか。

昼時に鎌倉を出れば、陽がまだまだ高い内に其の地を踏む事ができる。


年老いた一族の長が、息子に連れられてわざわざ駅まで出迎えに来ていた。

没落したとは言え、長が足を伸ばして孫を出迎えるなど、古の時代では考えられぬ事。

其れ程までに懐かしく、私はこの年寄りに可愛がられていた存在だったらしい。

…流石に、頭を撫でてみようとは思わなかったであろうが。(届かないし)


車に乗ると、皺深い顔が仕切りに話し掛けてくる。

街並みはすっかり変わったが、山の姿は変わらない、とか。

今日は坊が(私の事をこう呼んだ)来たから、麓までよく見える、云々。

老人は皺を深めながら、御国訛りで独り郷愁に浸っている。

確かに、此の地を代表する其の霊峰は、勇壮で気高さを感じさせる姿である。

…が、私にとってはその雄大さも遠い記憶の中に埋もれており。

ただただ、にこやかに微笑んで頷く事しかできなかった。


車で30分。

たったそれだけの時間で、周囲の景色は一変する。

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何処までも平らな土地と、奥の間の屏風のように立ち塞がる、

山…山…山、そして山。

陽を背にすると、立ち向かう視界の総てが白い冠を抱くパノラマ風景となった。

手前に広がる田園には、その雄大さを邪魔する無機質な物体は少ない。

僅かに点在する大木群は、此の地特有の「カイニョ」と呼ばれる屋敷林。

雪山から吹き降ろす風雨から、屋敷を守る為に植えられた防風林である。

そして一番近い木々に囲まれた家さえも、長の弟の屋敷だったりする。


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本家の慶弔事には、一族総て集まるのが慣わし。

都会では考えられぬ程の、兄弟・姉妹の数が本家に押し掛ける。

故に、その子達、孫達総て呼ぶのは流石に無理が在る為、

従兄弟やその子達との繋がりは、現代では次第に疎遠なものになっていく。

私自信、集まる顔のほとんどが初見であったのは言うまでもない。


挨拶するにも、誰が誰やら…

相手にとっては懐かしくとも、皆目思い出せぬ此方にとっては息苦しさが増すばかり。

会話の合間を見計らい、散歩の振りして外へと抜け出してみる。

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土間付きの広い玄関を出て、庭先へ回ろうとしてふと立ち止まる。

此の独特の塀の造りと、覆い被さるような大木の情景……


やっと、一つの記憶が蘇る。

此の時ばかりは、歳の近い従兄弟達だけで夕暮れ時に集まった。

私が持参した花火を囲み、この大きな木の傍で遊んでいた事を。

街では迷惑がられそうな、打ち上げ花火のセットを持って来ていた。

騒音だ何だと通報する世知辛さなど、此の辺りには存在せず。

何しろ数百m離れた御隣さんも、親戚の家。

街では味わえない興奮を、きっと愉しみに持って来たのであろう。


そこで軒先から呼ばれた声に、現実に引き戻される。

田舎らしい持て成しの夕餉と、何杯も薦めて来る艶やかな白米と麹の味噌汁が待っていた。

食後再び外に出て、夕闇の風景に浸ってみる。

西に落ち掛けた夕陽の名残りに、幻想的に浮かび上がる屋敷林を遠目に重ね。

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小川のせせらぎ。

蛙の鳴き声。

子供達の嬌声。

尾を引く火玉の炸裂音。

目の前の黒い緞帳に、幼き日の記憶が鮮やかに映し出された。


そう、確かに私は此処に居た。

私の中で息衝く血脈も。

確かに、お前は此処に居たのだと。

私に呼び掛けていた。



翌朝。

「骨送りの儀」も滞り無く済ませた一行は、大きな川沿いに在る先祖の墓へと向かう。

相変わらずの大人数で、やたらと賑やかで。

これでは、送られる側も…ま、賑やかで寂しくは無いのだろうが。


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実は、墓に骨を納める場に立ち会うのはまったくの未体験だった。

一方、やたら長い人生を歩んで来ている方々は、坊さんの有難い功徳の法話に耳をも貸さず。

「あぁ、あれは曾爺様のかな…」とか、

「あれは、江戸中期ぐらいかねぇ…」とか。

開け放たれた墓石の扉奥に潜む、時代掛かった素焼きの骨壷の数々を覗き込み、

にわか仕込みの『骨壷探偵団』が結成された様子。


『……もうすぐ、皆様も御仲間入りですよ。(ふふりっ)』


と、扇子を開いて含み笑いを隠した時。


扇子の広がりに呼応するかのように、背後で影が動く。


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ずっと近くの電柱の上から、此方の様子を眺めていたのであろうか。

一羽の大きな犬鷲が、悠然と翼を広げて雪山に向かって飛び去って行く。

「きっと、あの鷲は……」そう呟くも、

『鑑定団』は品定めに相変わらず急がしく、そのうち鑑定結果の値札でも出しそうな勢いで。


次第に高くなりゆくその影を、扇子で仰ぎながら感慨深く見送ったのは、

どうやら私だけのようであった――。

                                
                                   (了)

ついでに【銀雨舞台裏『実は…』30問バトン】
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by yugenniou | 2007-04-14 13:16 | 帰依―Kie

蜩之章 ~弐~
「いらっしゃい。あら、浴衣なんか着て…これから何処かにお出掛け?」

生成り地に焦げ茶縞の会津木綿を質素に着こなす優しい笑顔の前で、

照れくさそうにモジモジと俯き、着慣れぬ浴衣の裾を掴んで少女は頭を振る。

「おかあさんにきせてもらったの…おどりをならいたいからって…」


* * * * *

夫の道場には、柔術を習いに来る者は少なかった。

古流の名を掲げるも、その知名度は低く。

学生時代に腕の覚えが在った会社勤めの社会人が数名と、

柔道等と平行して習いに来る学生が数名程度。

子供達で賑わう柔道や剣道の町道場に比べれば、

一人で教えられる数にも限りがあり、寂しい運営と認めざるを得ない。

当然、それだけで生計は成り立たず。

妻は嫁いで来た時より、自らの手で習い事の教室を開く許しを得ていた。

日本舞踊と胡弓。

彼女もまた、家元の親を持つ家柄であった事が幸いし。

週三回の胡弓の生徒は僅かであったが、うら若きその容姿と教えが定評となり、

踊りの方は花柳界の若い生徒や、裕福な主婦層で小さな教室は賑わいを見せていた。

息子が食べ盛りとなった今では、細々と暮らすには充分賄える程度に。


教室が開け、生徒達が挨拶を終える頃にその少女は訪れる。

近所付き合いの下手な夫の、数少ない友人の中の娘さん。

夫婦共に交流を持つ間柄となり、独りっ子同士の二人も打ち解けるのに時間を要せず。

娘の居ない自分にとっても、その愛くるしい姿は愛情を傾けたい存在となった。

一人息子にとって五つ離れたその子は、善き遊び相手であり、子分でもあるらしく。

夫が所用で居ない日や、稽古の無い日は常に一緒に居り。

野原で泣きながら追い駆けている姿や、道場で並んで昼寝をしている風景は、

まるで仲良き兄と妹の姿そのもの。

夫にとっても矢張り、それは同じであったらしく。

夕餉を共にしても、そのまま寝泊りすることがあっても無言の侭。

それでもちらりと様子を伺う顔に、此方が微笑ましく思う程に愉しそうな表情が浮べていた。



* * * * *


「…踊り?」

こくんと頷く手許を見ると、彼女は団扇を握っていた。

窓から差し込む夕陽に照らされ、小さな手の中で二匹の金魚がくるくると。

彼女の心を映すかのように、愉しげに舞い踊っていた――。


                                        (了)

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※この物語は、某PL様のネタを元に巽の幼少期を描いております。
 PBWがお初となるその方の、今後の設定作りの題材となっているのは秘密です(笑)
 …自分の後付け設定に役立っているのも、大いに秘密デスガ(視線逸らし)

 ガンバレ~(カクカク)
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by yugenniou | 2007-01-17 12:27 | 帰依―Kie

蜩之章 ~壱~

晩夏の夕暮れ。

古びた道場に響き渡る怒声が、夏の盛りを惜しむ蜩の鳴き声を掻き消す。

鬼さえも、夜叉さえも、その覇気に後退りする程の殺気の中。

幼いその少女は、張り詰めた空気に身を震わせながらも其処に居続けた。

蜩が鳴き止むまでずっと、其処に居続けた。

* * * * *

そんなに怖いのならば、目を瞑るか居間にでも居ればよいものを…
(廊下に正座する幼い少女の顔を覗き見て、心配顔になる道着の男)

ううん…ここにいる…。 兄上…見てるの…。
(薄っすら涙目になった少女が首を振り、ぽつりと呟く。)

ふむ…そうか。では、好きにしなさい。
(相好を崩し、優しい笑顔で娘の頭に手を置き、頷く。)

……はぁ……はぁ……駄目だ……もう動けん……
(荒い息で仰向けになり、胸板を波打たせている少年)

無様に倒れおって…起きんか、うつけ者っ!!
(何ら躊躇いも無く少年の脇腹を蹴る。その面は既に般若の如し。)

ぐっ!……がはっ…っ……
(息が詰まり、喘ぎ転がる。)

それでも武士の血を引く子か!なっさけない…そこ等の犬にでも食われるが良いわっ!!
(ダンッ!と床板を踏み鳴らし一喝。)

……ぎ……ぎぎっ……ぐ、がぁぁ……っ!
(口角に泡を残し、ギラつく目を床から起こす)

ほぉ…生意気な目をしおって。犬畜生にも劣るお前に、何ができるのだ?
(両膝に掌を置き、中腰でその瞳を睨み返す。)

くっ……こ…のぉ……っ!!

* * * * *

少年は立ち上がり。

そしてまた、床に叩き付けられる。


幾度も、幾度も、陽が落ちるまでそれは繰り返された。


少女は、本当は今すぐにでも逃げ出したかった。

激しい振動が床を揺るがし、悲鳴にも似た呻き声が上がっても。

少年が歯を食いしばり、立ち上がろうとする限り。

少女は必死に顔を上げ、其処から離れなかった――。


                                    (了)
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by yugenniou | 2007-01-11 21:11 | 帰依―Kie


表では言い表せぬ日々の出来事などを戯言や映像などと共に、此処に記す。妙な画像リンクが貼られたりしているが、本人は大真面目に書いている積りである。 …多分。
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